お話のカゴ

ショートショート、お話を書いていきます

祝日の前日

f:id:light_2021:20210323124129p:plain

 

今週のお題「祝日なのに……」ということで、こちらのお話を考えました。

 

K君は、今夜の夕食の後が楽しみでなりません。

K君の家で恒例の祝日の前日の家族会議があるからです。

普段忙しくしている、お母さんも祝日だけは、お出かけに連れてってくれます。

いつもとは違う公園で遊んだり、山でピクニックしたり、海にドライブに行ったり。

平日に、お母さんとなかなか遊べないK君は、とっても嬉しいのです。

 

その祝日のお出掛けの内容を決めるのは、前日の夕食の後と決まっていました。

お母さんと、おねえちゃんと、いろいろな候補を出して、祝日の過ごし方を決めるのです。いつも盛り上がって、楽しくなります。

実は祝日そのものより、楽しい時間なのかもしれません。

 

今夜もK君は夕食を食べてから、明日の予定を切り出そうとしました。

でも、今夜は少し様子が違いました。

お母さんと、おねえちゃんは、少し寂しい表情です。

K君も様子を察して、お母さんに静かに聞きました。

「明日は祝日だね。お母さん、もしかして忙しいの?、、、」

お母さんはK君が心配していることに気が付き、こう言いました。

「明日は祝日ね。でも明日は予定が決まっているのよ」

「どこに行くの」

「明日はね。2年前にお父さんが亡くなった日なの。だから、お父さんのお墓参りに行きましょう。Kは、まだ小さかったから、覚えてないよね」

そう言って、お母さんは、お姉ちゃんとK君をぎゅっと抱きしめました。

 

おわり

 

正夢?

f:id:light_2021:20210315233338p:plain

今週のお題「〇〇からの卒業」ということで、卒業式のお話を考えました。

 

ざわざわざわざわ。

卒業生やその保護者達が校門を出てきます。

校門で記念写真を撮ったり、友達同士で別れを惜しんだり。

そんな中、このような会話が、あちこちでされてました。

「なんか、いい卒業式だったね」「面白かったね」「心に残る卒業式だったね」

「こういうのもいいんじゃない」

 

 

ここに無気力な高校生の青年がおりました。

何をやっても、長続きしません。高校も惰性で入れたような感じです。

入学式を終えた夜のこと。

「あれ?ここって、○○高校かな」

「僕って、昨日入学したばかりだよな」

「でも、光陰矢の如しっていうし、もう卒業なのかな」

青年は、あきらめというか、身を任せるというか、流れには逆らわないでおりました。

でも、見る光景は、予想と違いました。

高校3年間で立派に成長したと思われる青年は卒業生代表として、卒業証書を受け取っています。とってもとっても輝いていました。明るい未来が待ち受けていて、前途洋々、周りからもとても期待されています。

と、ここで夢が覚めました。

青年は、この夢は正夢との確証がありました。

理由はありません。ただ、今までの夢とも違い、あまりにもリアルでした。

青年も正夢と感じたのです、これは正夢を見た人にしかわからない感情でしょう。

 

それからの青年は、一変しました。

何事にも熱心に取り掛かり、勉学にスポーツに充実した高校生活を送りました。

両親も、あまりの変わりようにびっくりです。

そうして、あっという間に3年間が過ぎ、卒業式を迎えました。

青年は学年上位の成績、スポーツでも大活躍を見せましたが、でも卒業生代表とはなりませんでした。

しかし、良い習慣は良い結果をもたらします。

青年のその後の人生も充実した人生を送りました。

そうしているうちに、青年だった男にも家族ができて息子が出来ました。

息子が高校の卒業式を迎えるとき、青年だった男は「ここだったか」と考えました。

そう正夢のシーンです。

でも、違いました。息子も卒業生代表ではありませんでした。

そうこうしているうちに青年だった男も年を取ります。

教員職についていた男は母校の校長先生になりました。

校長になって、初めての卒業式です。

形式にうるさい教頭先生に「やれやれ」と思いながらも、そつなく校長の役割を務めるつもりでおりました。

卒業式が始まります。

卒業証書授与が始まりました。

卒業生代表が校長である男の前に近づいてきます。

「あーっ!これだったのか!!!」

校長先生、いきなり叫びました。周りはどよめきます。

そう。青年が見ていた正夢のシーンは、今回の卒業式だったのです。

今年の卒業生代表は、明るい未来が待ち受けていて、前途洋々、周りからもとても期待されて、輝きに満ちておりました。

 

「しっ、しつれいしました。」

校長先生が、そうつぶやくと、どっと笑いが起きました。

校長先生は、心が震え感動で涙しています。

こんどは周りも感化され、感動の嵐です。

そうして大変盛り上がった卒業式も、校長先生があいさつする番になりました。

とても熱いまなざしで、校長先生は語り始めます。

「卒業生の皆さん!夢は必ず叶います!私も叶いました!今、私は感動で身が震えております。だから、皆さんも夢を見ましたら、それを諦めず、いつまでも追い続けてください!」

校長せんせ~い、ポイントずれてますよ(苦笑)

 

おわり

 

 

 

 

宇宙からの侵略

f:id:light_2021:20210308232114p:plain

今週のお題「花粉」ということで、やはり花粉症について、お話しを考えてみました。

 

「ここが地球か」

「はい」

「この星も我々が資源と生命をごっそり奪ってやる。ぐひひっ」

宇宙人が地球の侵略にやってきたのだ。

人間によく似ていたが、指が6本あるリーダ格のNが言った。

「まずは偵察だ。エージェント2名を送り込め」

「はっ」

侵略にやってきた宇宙人は地球人に比べ、5倍の力と10倍の知力を持っており、軍事力も1000年以上進んで、とても地球人に勝ち目はない状況だった。

 

「N様、エージェントが戻ってきましたが、様子がおかしいようです!」

「何があったというのだ」

「わかりません。ひどく憔悴し怯えておりました」

「よし、緊急会議を開き、エージェントに報告させろ」

「はい」

 

地球侵略のための緊急会議が開かれた。

エージェントは1名のみである。

Nが言った。

「もう1人のエージェントはどうした」

「戦死しました。。。」

皆が動揺した。

苦渋の表情で、Nが言った。

「エージェント1名が戦死したことを含め、報告を頼む」

エージェントBが話し出した。

「我々は、手始めに島国に偵察に降りました。その島国は日本と呼ばれ、技術も科学力も大したことありません。

我々の軍事力であれば、侵略も容易と思われました。

しかし、偵察開始後、数分経ったときの出来事です。

その日本のあちこちから、『悪魔の叫び』が聞こえてきました」

「なんと、『悪魔の叫び』とな」

「はい」

「エージェントAは、その『悪魔の叫び』を近くで聞いてしまったため、母船に戻ってから、息を引き取りました。私も、戻ってから数時間は昏睡状態に陥りました。」

「なんという破壊力だ」

エージェントBが続けた。

「我々が決死の思いで記録した映像があります。『悪魔の叫び』については、害が及ばぬよう加工しましたが、皆様、ご注意ください」

そこには、日本の駅前の慌ただしい様子が映し出されていた。

そして、とてもとても小さい音に加工された『悪魔の叫び』の場面が出た。

「はっくしょん!」

宇宙人たちは、一斉に耳をふさぎ、とても苦しい表情を見せた。

映像に映っていた、人間は鼻から体液を出し、それをさらにシート状のものへ勢いよく出しながら、笑っていた。悪魔の笑いだ。

 その映像を見ながら、中には気絶した宇宙人もいた。

 宇宙人にとって、「はっくしょん!」は、「苦しんで死ね」の発音に似ており、脳の中に直接響く周波数となって、とても不快な身体的苦痛を与えるのであった。

また、宇宙人たちは体液が出ていても笑っている、この生命体のことが怖くなりつつあった。

Nは言った。

「我々の科学力であれば、『悪魔の叫び』を防ぐ装置を開発できないのか」

科学担当が言った。

「難しいでしょう。報告によれば、日本に生息する人間の男女問わず、大人から子供まで『悪魔の叫び』を使うとのこと。従って、様々な周波数に対応しなければなりません。きっと、いたちごっことなることでしょう。また、開発にも多くの犠牲を払うことになります」

「おそらく、開発者の確保も難しいと思われます」

だれも『悪魔の叫び』なんか聞きたがらない。

Nが言った。

「うーむ。なんということだ。これまで、1035個の星を侵略してきた我々が、こんな低レベルの生命体に阻まれるとは。仕方がない。次の星系に向かうぞ。」

そうして、静かに地球侵略の危機は回避されたのであった。

 

「今年も花粉が多いな~」「はっくしょん!」

「花粉症、つらいよね~」「はーくしょん」

みんな、花粉症のつらさを口々にしていた。

花粉症のおかげで、宇宙人からの侵略から救われたともつゆ知らず。

 

おわり

 

 

ひな祭りの新習慣

f:id:light_2021:20210304233315p:plain

今週のお題「雛祭り」ということで、こちらのお話を考えました。

 

江戸時代の中期、喧嘩の絶えない夫婦がおりました。

夫の松吉は腕のいい大工だったので、裕福ではありませんが不足なく暮らしています。

妻のお竹は、商家の娘で、松吉のおおざっぱな行動が気に入りません。

その夫婦には9歳の可愛い娘、小梅がおりました。

 

ひな祭りの時期になり、この家族も小さいながら、ひな人形を飾っています。

ある日、いつものように夫婦喧嘩が始まりました。

「お前は、いつもそうだ。細かすぎる。」と松吉が言うと

「あんたが、おおざっぱすぎなんだよ」とお竹が応酬します。

でも、この日は少し違いました。

小梅が無理やり、松吉とお竹の間に入り、こう言いました。

「ひな祭りの時期ぐらい、私をお祝いする気持ちがあるのなら、喧嘩はやめて!」

二人は小梅のことが可愛くてたまらないので、喧嘩を止めます。

小梅が言いました。

「今、江戸では、夫婦同士で、お手紙をひな人形の下に置いて交換することが流行ってるらしいよ」

「へぇ、粋だねぇ」二人とも、江戸っ子。流行りと聞いたら、やりたくなります。

「だから、お父ちゃん、お母ちゃんも、お互いに言いたいことを手紙に書いて、ひな人形で手紙交換したら」

「よし、書いてみるか」

二人とも、闘志むき出しで答えました。きっと、ひどいことを書くつもりなのでしょう。

でも、このひな人形による手紙交換のお話は、小梅が両親に喧嘩を止めてほしくて、とっさに考えた作り話でした。

小梅には、作戦がありました。

実は、松吉は字を読んだり、書いたりできません。そのことを、お竹は知りません。

いつもこっそりと、小梅に読んでもらったり、代筆をお願いしたりしてました。松吉と小梅の二人だけの秘密です。

今回も、お竹が書いた手紙を持って、松吉は、小梅のところに来るはずです。

 

やはり、松吉はお竹が出かけている間に、お竹が書いた手紙を持って、小梅のところにやってきました。

「小梅よ~。今回もたのむぜ」

「あいよ、おとうちゃん」

「早速だが、お竹の手紙には、なんて書いてあるんだい」

小梅は、お竹が書いたひどく罵倒した手紙を読まず、こう言いました。

「こう書いてあるよ

『おまえさん、普段、細かいことばかり言って、ごめんなさい。顔を合わせちゃうと、ついつい、きついことを言ってしまうが、これからは気をつけるようにするよ。』

だってさ」

松吉は拍子抜けしたような顔をして、

「なんだい。あいつも可愛いところ、あるじゃねぇか」

「では、お父ちゃんの手紙には、こう書いてくれ」

『お竹の手紙読みました。おめぇが、そう言うなら、勘弁してやるぜ。これからは気をつけな』

こりない、おやじである。

小梅は、それを聞いて手紙には、こう書いた。

『俺がおおざっぱなために、おめぇには苦労かけてすまねぇ。これからは、気をつけるようにするよ。どうか許してくれ。』

「おとうちゃん、書いたよ。どうぞ」

「お、いつもすまねぇな。ありがとうよっ」

松吉は明るい顔で、ひな人形のほうへ手紙を置きに行きました。

 

次の日、松吉とお竹が、なにやら楽しそうに話しています。

小梅の作戦がうまくいったようです。

「いままで、言いすぎだったかもな。俺も気をつけるよ」

「わたしのほうも、ガミガミ言い過ぎだったかもしれないね。気をつけるよ」

今年のひな祭りは楽しく過ごすことができました。

 

話は、小梅が喧嘩の間に割って入ったところに戻ります。

「ひな祭りの時期ぐらい、私をお祝いする気持ちがあるのなら、喧嘩はやめて!」

それを聞いた、松吉とお竹は「しまった」と反省しました。

お互いの顔を見ると相手も同様のようです。

松吉とお竹は、お互いの顔を見て察しました。よく喧嘩はしてても、やはり夫婦です。

小梅が居ない隙に松吉とお竹は話をしました。

「小梅に申し訳ないことをしてしまった」

「ひな祭り、楽しみにしていたもんね」

「よし、一時休戦としようじゃねぇか」

「あいよ」

「ところで、ひな人形の手紙交換って、聞いたことあるか」

「ないねぇ。きっと、私たちのけんかを止めるために小梅が考えたんだよ」

さすが、母親である。

「では、その話、のっかってやろうじゃねぇか。おめぇは、俺に対して、ひどい手紙を書いてくれ」

「え?それじゃ、せっかく仲直りさせようとした小梅がかわいそうじゃないか」

そこで、松吉は小梅に文字が読み書きできないと嘘をついていることを告白した。

「小梅がひらがなを習い始めたころなんだけどよ。あるとき、小梅が看板を読んでくれたんだ。『お父ちゃん、文字が読めないから助かったよ』って言ったら、小梅が『だったら、これからも私が代わりに読んであげるね』って、うれしそうに言うもんだから、つい本当のことを言いそびれちゃって」

「ばかだねぇ」お竹は、とてもやさしい顔で言った。

「それで、小梅は手習いが好きになったんだね。あんたにしちゃ、ずいぶん、気が利いたことをやったじゃないの」小梅は近所で秀才と言われていた。

「『あんたにしちゃ』は余計だろ」そう言いながらも松吉も笑っていた。

「そこでだ。たぶん、小梅は俺が代読と代筆をお願いに来ると思っているはず。そして、そのときに小梅は、お竹の手紙の内容をうまいこと変えようとするだろう」

「だから、その小梅のたくらみにのってあげるってわけね」

「そうだ」

さすが、秀才の両親である。

そうして、順調に事が運び、和やかな、ひな祭りが過ごせたのである。

この一件があってからというもの、お竹も松吉のことを見直し、松吉もお竹の寛容さに惚れ直し、実際の夫婦仲も戻ったのであった。

 

1年後、小梅がひな人形を飾ろうと準備しているとひな人形と一緒に手紙が出てきた。

「小梅へ。お父ちゃんです。実はこの通り、お父ちゃんは文字が書けるし、読むことも出来ます。小梅が、おとうちゃんの代わりに文字を読むことを、あまりにも喜ぶから、これまで言い出せずにいました。これまで嘘をついて、すまなかった。」

小梅は、お父ちゃんのやさしさが伝わり、にっこりしました。

 

それからというもの、この一家では、毎年、ひな人形の下に家族あての手紙を書いて告白する習慣になったとさ。

 

おしまい

 

アン王女のバレンタインデー大作戦

f:id:light_2021:20210220002050p:plain

今週のお題「告白します」ということで、バレンタインデーのお話を考えてみました。

 

アン王女は、夜道を人目を避けながら急いでいた。ネットで知り合ったケイの家に行くのだ。ケイはアン王女と同じ年の女の子とのことだが、実際はわからない。でも、今はケイを頼るしかないのだ。

2時間前、幼い時からの親友でメイドでもあるアイの協力で、何とか厳重な王宮を抜け出すことができた。アイのことも心配だが、今は抜け出したことがばれないことを願うばかりだ。もし、アイがアン王女の脱出に手を貸したことが分かったとしても、アイはメイドとしてとても優秀で、アン王女の両親、すなわち、王と女王にとても気に入られていたので、恐らく厳罰に処されることにはならない。アン王女はそこまで計算済みで今回の計画を実行に移したのだ。もちろん、もし、アイが処罰されることになれば、アン王女は全力で守るつもりだった。

 

あまり外を出歩くことに慣れていないアン王女だったが、なんとかケイの家に到着できた。アパートに一人暮らしとのことである。ドキドキしながら、チャイムを鳴らした。

「はーい」女の子の声だ。ほっとした。

「王女様だって、ほんとだったんだ」とケイが言った。

「ほんとに同じ年の女の子でよかった」とアン王女は言った。

二人で微笑みあうと、アン王女はケイのアパートの中に入れてもらった。

「では、さっそく今から作りますか」

アン王女には時間がない。

「明日の朝までには、家に戻りたいから助かるよ」

「わかってますよ、アン王女」

二人は、さっそくバレンタインデーのチョコ作りを始めた。

アン王女にとって、それはとても楽しい時間だった。

「できた~」

二人とも、時を忘れ夢中で作っていたため、朝が明けようとしてしまっていた。

「早く帰らなきゃ」

そのとき、アン王女のスマホにアイからのメッセージが入った。

『脱出がばれました』

緊張が走る。

ケイが言った。「ここはいいから、早くチョコを相手に渡してきな」

「ありがとう。今度はうちに遊びに来てね」

「私みたいな一般人が入れるかな」と笑いながら、ケイは見送ってくれた。

アン王女は何としても、今度お礼がしたいと思いながら、今回の作戦の最終目標へ向かいだした。

 

王宮では緊急事態となっていた。一人娘のアン王女が行方不明となったのだ。それもアン王女自身が計画して脱出したらしいとのことまでわかっていた。王室特別警備隊は国中の情報ネットワークを駆使し、アン王女の捜索を行っていた。王室特別警備隊自身も総動員で散らばり、捜索していた。

 

アン王女が最終目標である、チョコを渡したい相手の家に向かっている途中、とうとう王室特別警備隊に所在地を突き止められてしまう。

王室特別警備隊の隊長は、隊員に命令した。

「王女を確保せよ。これは国の一大事のため、やむを得ない。麻酔銃の使用を許可する」

「はっ!」

隊員は緊張の面持ちで現場に向かった。

 

アン王女も覚悟していた。見つかれば麻酔銃で撃たれるかもしれない。でも、そのことも含めて、何か月も考えて決断した作戦だ。やり遂げたい。

なんとか、目的地に近づいてきたころ、王室特別警備隊の制服が目に入った。

「見つかった。。。」

アン王女は絶望的な気持ちとなった。相手は超エリート集団、王室特別警備隊である。

とても逃げ切れない。「ここまでか」とアン王女はあきらめた。

 

王室特別警備隊の隊員が近づいてくる。

「アン王女、どうか動かないでください。麻酔銃を持っています。でも撃ちたくはありません。」

アン王女は観念したように立ち止まっていた。でも背中を向けている。

隊員は警戒しながら、アン王女へ近づいて行った。

隊員がアン王女の真後ろにきたとき、アン王女が振り返った。

アン王女は、奇跡が起きた驚きと喜びでいっぱいの顔で、こう言った。

「私のバレンタインチョコを受け取ってください。」

 

おわり

 

ほくさいくんの絵

f:id:light_2021:20210218223842p:plain

最近、美術館に行っていません。別に絵のことは詳しくないし、自分で描くことも出来ないけど、美術館で絵を見ることは楽しいです。新型コロナウィルスが収束したら、美術館にも足を運びたいですね。そんなことを思いつつ、こんなお話を考えてみました。

 

ほくさいくんが通う幼稚園の先生は悩んでいた。

「今回もだ。。。」

みんなが、「よくできました」や「たいへんよくできました」の大きな花丸シールを付けてもらう中、ほくさいくんの絵には、いつも「がんばりました」の小さな丸シールだけでした。

この一年、ほくさいくんは、ちっとも、まともに絵を描いてくれませんでした。

他の子が、お母さんや、お父さん、どんぐりやお花、キリンやライオンのような動物、電車や消防車のような乗り物を描いている中、ほくさいくんの絵は、いつも線が並んでいるだけ。

先生も最初は幼稚園児なのだから仕方がないと根気強く、教えていましたが、ほくさいくん自身が「これで、いいの!」と言って、聞こうともしません。

先日も、みんなで、お花畑に行って花を描いたりチョウチョを描いたりしている中、ほくさいくんは、時折、ぼんやりと遠くを眺め、これまでと同じように線が並んだ絵を描いてました。

 

そんな、ほくさいくんの絵ですが、描いている線には、迷いがなく、不思議と魅力も感じます。だからこそ、先生は、ほくさいくんに、ちゃんとした絵を描いてほしいと、一所懸命、絵を教え続けました。

 

そうこうするうちに、3月になり、年度末を迎えようとしてました。

「とうとう、最後まで、同じような絵だったな。。。」と

先生は、少し空しく感じながら、ほくさいくんの今年度最後の絵を眺めて言いました。

 

でも、最後の絵を描き終わったときに、ほくさいくんが言いました。

「ぼく、もういちまい、かきたかったな」

ほくさいくん自身は、絵を描くときは、いつも真剣に、とっても楽しんでいました。

先生は考え直しました。

そうなのです。幼稚園児なのだから、楽しんで絵を描くことが一番大事。将来、名前に負けないくらい立派な絵を描く画家になるかもしれない。そう思うと、先生は、ほくさいくんの将来が楽しみになりました。

 

「よし、やるか!」

この幼稚園では、毎年3月に恒例になっている先生の大仕事があります。

子供1人ずつの作品集作りです。先生にとっては、大変な仕事でしたが、子供たちの成長も感じられる、うれしい行事でもありました。

いよいよ、ほくさいくんの作品集の番です。

ほくさいくんの絵は、初めから最後まで線が並んだ絵でした。

入園した4月の絵、5月、6月の絵と整理していきます。

「ほくさいくんには、どのような景色が見えているのだろう」と

先生はつぶやきながら、作業を続けていました。

10月までの25枚目の絵を整理したころ、ふと先生は気が付きました。

ほくさいくんが描いた絵は並べていくと隣同士がつながるのです。

「ええ!?」

興奮した先生は、昨年4月から今年の3月までの絵を並べてみました。

全部で49枚。10×5枚の長方形に並べると、

そこには幼稚園からいつも見えている、富士山が描かれていました。

「なんと! ほくさいくんは、いつも富士山を描いていたのね」

そう言って、先生は2枚の新しい画用紙を持ってきました。

1枚はそのまま50枚目として、49枚目の隣に並べました。

そして、もう1枚の51枚目には、大きな大きな花丸と「たいへん、よくできました。さいごの いちまい たのしんで かいてね」と書いて、ほくさいくんの絵の邪魔にならぬように添えました。

  

おわり

 

ピーターの願い

f:id:light_2021:20210209004117p:plain

お題「#この1年の変化」ということです。やはり新型コロナウィルスのことは、外せないですよね。私も生活が一変しました。テレワークが増え、お出かけが減り、マスクが手放せない状況です。ワクチンの計画も進んでいることから、この状況は好転すると信じています。今回は、新型コロナウィルスについて、このようなお話を考えました。

 

ピーターは、今夜もこっそりと家を抜け出し、公園へ向かった。

夜の公園は危険であることはわかっている。でも、新型コロナウィルスの影響で、夜の公園は、ひっそりと静まり返っていた。考え事をするにはぴったりなのだ。

最近、ピーターは悩んでいた。育ての親の、おじいさんとおばあさんが経営しているカフェが、新型コロナウィルスの影響で、お客が激減し、危機的状況に追い込まれていた。いつも明るかった、おじいさん、おばあさんも最近元気がない。

ピーターは、自分に出来ることが何かないか。おじいさん、おばあさんに何か恩返しはできないか。世の中の新型コロナウィルスで苦しんでいる人達を救いたい。そのようなことを考え、今の自分には知識も力も無いことを悩んでいた。

そんなことを悩みながら、持ってきた、おやつを食べていると、向こうの方から、同じぐらいの年齢の子がやってきた。

「やあ、こんばんは」

ピーターは少し警戒したが、相手は別に悪そうではなかったので、挨拶を返した。

ピーターは善悪について、鼻が利くのだ。

「こんばんは」

相手はピーターが食べているおやつを見ながら、言った。

「おいしそうだね。少し分けてくれないかい」

「いいよ、半分あげる」

ピーターは思った。おなかが空いているのだろう。

この子のところも、新型コロナウィルスで苦しんでいるのかもしれない。

「なかなか、おいしかった。ありがとう」

「どういたしまして」

「さっき、君はすごく悩んでいたね。どうしたんだい」

ピーターは、どうしたもこうしたも、新型コロナウィルスのことに決まっているだろって、言いたいところを抑えつつ、最近悩んでいることを話してみた。

「そうなのか、この星は新型コロナウィルスが発生しているのか」

ピーターは、へんな奴と思いつつも、じっと聞いていた。

「私は、実はこの星の人間が言うところの宇宙人なんだ。先ほどのおやつのお礼に君の悩みを解決してあげるよ」

ピーターは思った。こいつ妄想癖があるのかな。まあいいや、こんな夜の公園で出会ったのも何かの縁。付き合ってやろう。

「ありがとう。よろしくたのむよ」

「では、この薬をあげるよ。一粒食べてみるといいよ。私の星で使用されている新型コロナウィルス対策だよ。」

さすがに躊躇った。見た目は飴のようである。何も害はなさそうには見える。でも、こいつは噓をついているようには感じられないし、先ほどから悪い奴が出すニオイも全くしない。ピーターは、この自称宇宙人のことを信じて、もらった薬を口に入れた。

「おいしい、おやつをありがとう。それでは、さようなら」

宇宙人は、UFOに乗って飛び去って行った。

 

2週間後、ピーターは、とても幸せな気持ちになっていた。

おじいさんとおばあさんのカフェにお客さんが戻ってきて、危機的状況から抜け出したのだ。二人の表情もとても明るい。

 

ニュースでは新型コロナウィルスの感染者数が急激に減少していることを伝えていた。

「ここ最近、新型コロナウィルスの感染者数が減少している原因について、専門家に伺いました。」

専門家「新型コロナウィルスを弱体化する乳酸菌の一種が人々に感染というかたちで広まっていったことが原因です。その乳酸菌は突然変異で生まれたということがわかってきました。ただし、突然変異した、その乳酸菌は本来、犬しか持っておりません。この乳酸菌は、新型コロナウィルスを弱体化し、さらに犬から人間に感染するという変化を遂げました。人類にとって、なんて幸運な奇跡が起こったことでしょう。」

 

ピーターは、宇宙人にお礼のつもりで、夜の空に向かって叫んだ。

「ワォーン」

 

おわり