お話のカゴ

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ほくさいくんの絵

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最近、美術館に行っていません。別に絵のことは詳しくないし、自分で描くことも出来ないけど、美術館で絵を見ることは楽しいです。新型コロナウィルスが収束したら、美術館にも足を運びたいですね。そんなことを思いつつ、こんなお話を考えてみました。

 

ほくさいくんが通う幼稚園の先生は悩んでいた。

「今回もだ。。。」

みんなが、「よくできました」や「たいへんよくできました」の大きな花丸シールを付けてもらう中、ほくさいくんの絵には、いつも「がんばりました」の小さな丸シールだけでした。

この一年、ほくさいくんは、ちっとも、まともに絵を描いてくれませんでした。

他の子が、お母さんや、お父さん、どんぐりやお花、キリンやライオンのような動物、電車や消防車のような乗り物を描いている中、ほくさいくんの絵は、いつも線が並んでいるだけ。

先生も最初は幼稚園児なのだから仕方がないと根気強く、教えていましたが、ほくさいくん自身が「これで、いいの!」と言って、聞こうともしません。

先日も、みんなで、お花畑に行って花を描いたりチョウチョを描いたりしている中、ほくさいくんは、時折、ぼんやりと遠くを眺め、これまでと同じように線が並んだ絵を描いてました。

 

そんな、ほくさいくんの絵ですが、描いている線には、迷いがなく、不思議と魅力も感じます。だからこそ、先生は、ほくさいくんに、ちゃんとした絵を描いてほしいと、一所懸命、絵を教え続けました。

 

そうこうするうちに、3月になり、年度末を迎えようとしてました。

「とうとう、最後まで、同じような絵だったな。。。」と

先生は、少し空しく感じながら、ほくさいくんの今年度最後の絵を眺めて言いました。

 

でも、最後の絵を描き終わったときに、ほくさいくんが言いました。

「ぼく、もういちまい、かきたかったな」

ほくさいくん自身は、絵を描くときは、いつも真剣に、とっても楽しんでいました。

先生は考え直しました。

そうなのです。幼稚園児なのだから、楽しんで絵を描くことが一番大事。将来、名前に負けないくらい立派な絵を描く画家になるかもしれない。そう思うと、先生は、ほくさいくんの将来が楽しみになりました。

 

「よし、やるか!」

この幼稚園では、毎年3月に恒例になっている先生の大仕事があります。

子供1人ずつの作品集作りです。先生にとっては、大変な仕事でしたが、子供たちの成長も感じられる、うれしい行事でもありました。

いよいよ、ほくさいくんの作品集の番です。

ほくさいくんの絵は、初めから最後まで線が並んだ絵でした。

入園した4月の絵、5月、6月の絵と整理していきます。

「ほくさいくんには、どのような景色が見えているのだろう」と

先生はつぶやきながら、作業を続けていました。

10月までの25枚目の絵を整理したころ、ふと先生は気が付きました。

ほくさいくんが描いた絵は並べていくと隣同士がつながるのです。

「ええ!?」

興奮した先生は、昨年4月から今年の3月までの絵を並べてみました。

全部で49枚。10×5枚の長方形に並べると、

そこには幼稚園からいつも見えている、富士山が描かれていました。

「なんと! ほくさいくんは、いつも富士山を描いていたのね」

そう言って、先生は2枚の新しい画用紙を持ってきました。

1枚はそのまま50枚目として、49枚目の隣に並べました。

そして、もう1枚の51枚目には、大きな大きな花丸と「たいへん、よくできました。さいごの いちまい たのしんで かいてね」と書いて、ほくさいくんの絵の邪魔にならぬように添えました。

  

おわり